5/22 江戸東京たてもの園吟行 ふたたび

 

 

 

この句会が発足してから一周年ということで、原点として最初の吟行の地、江戸東京たてもの園に再び訪れました。

この日は最初に、俳句が上達するということは物の見方が変わるということ、という話をさせていただきました。

 

たとえば料理店を開く、プロになるというと何が必要か考えたとき、料理の腕が大事と思ってしまいます。
もちろん美味しい方が良いのは確かですが、よく見ると街の食堂などには、そこまで美味しくなくてもやっていけている店もあります。反対に、びっくりするほど美味しいものを作れてもプロには向いていない人もいます。
これはプロに必要なのが料理の腕だけでなく、立地や利益率、回転率などを計る「経営者の目」だということです。

 

あまり良い例えではないかもしれませんが、このように何かをつきつめていくとそれ以前とは一線を画す物の見方になります。お医者さんであれば人を見ただけで健康状態がわかるようになり、大工さんなら家を見れば普請の良し悪しが分かります。

 

では俳句をやっていくとどうなるのかというと、急ぎ足で目的地に向かう人は見落としてしまうようなささやかな出来事や、季節の移ろい、そうしたものが目に留まるようになります。なので、第一回の吟行と比べてフォーカスしたくなる対象も変わっているだろう、という話をしました。実際どう変化があったか比べてみて下さい。

 

◆慧
生活感消えて永遠(とわ)の生命なり
片かげに身をゆだねし昼下がり
薫る風木かげをぬけると目にまぶし

 

評:一句目、人が住むことがなくなったことで純粋なモニュメントになった家の完全性の句です。
二句目(片陰)は夏の季語で、建物や塀の日陰だということで、私も知りませんでした。勉強になります。
どちらも直接的に見たものを句にするのではなく、それを見て受けた「感じ」が句になっており、そのおかげで句を見るとこの日の日射しや匂いが鮮やかに想起できると思います。
ただ、やはり語調の字足らず、字余りのつっかえがそれを阻害してしまうので、

 

身をゆだねし→身をゆだねてや
木かげをぬけると→木かげをぬけて

 

にするとスムーズかと思います。

 


◆葩
風ごとに桑の実色に染まる道
三猿もまどろむ白き昼ひなた
三三が九いやよいやよと並ぶ猿

 

評:一句目、綺麗です。二句目、三句目は見ざる、言わざる、聞かざるの三猿の像のユーモラスさを詠んでいます。
三平さんから、三猿はいやがっているのではなく間違った認識をしないようにする仏法の智慧を表していると聞き、後日「いやよいやよ」を「よせやよせや」か「ならぬならぬ」にした方が本義に沿うのではないか、と聞かれました。
しかし、何が本義かといえば猿の姿を見てどう思ったかという心の動きのほうが本義で、いやがっているように見えたのなら、そう見えたという自分の知覚を記録しておくためにも最初の印象を通した方が良いでしょう。
三猿はシルクロード伝来でペルシャやエジプトのほうにも昔からあるそうです。ありがたい教えを伝えるだけなら猿でなくてもよい訳ですが、なぜ猿なのか? と必然性を考えると、もしかしたら教えのほうが後付けの可能性もあります。

 


◆九
蜘蛛の巣が主となりし花の家
池立ちてえさを求めて亀のむれ
丸かまど大阪ことばおくどさん

 

評:一句目は石楠花の咲き乱れる高橋是清邸の佇まいをよく表しています。ただ、蜘蛛ではなく蜘蛛の巣が主、というとちょっとややこしいので何かすっきり出来る直しがあるか考えてみてください。
二句目、立っているのは亀ではなく自分だということなので「池立てば」のほうが情景が理解しやすくなります。
三句目、他の来場者の会話から、かまどをおくどさんと呼ぶことを聞き、お作りになった句ですね。リズミカルで語呂が良いと思います。

 


◆夢坊人
夏近く遊ぶ子らの声高し
行き先は風に聞けと蝶は舞い
涼風にシャツの裾をあげてみる

 

評:非常に素直なてらいのない句です。どれも五月の気候の瑞々しさが出ていると思います。
普遍的でよい句ですが、ささやかなことでいいので、この日、この瞬間だけのメモリアルな何かも詠み込めると、忘れがたい句になると思います。三句目は女性の句だとすれば健康なお色気がありますね。

 


◆三平
銭湯のポスター告知二本立
五月晴れ我を通りし人何処 (伊達の間にて)
夢去りて今は現の老の日々

 

評:一句目、銭湯の建物にあった昔の映画のポスターの句です。今は二本立ては珍しいですね。
二句目は、仙台の伊達家とゆかりがあったことを偲ぶ句だそうです。三句目もやや後ろ向きというか、さびしい感じですが、まだまだ現役、お元気そのものなのですから、今この瞬間をもっとエンジョイしていってほしいと思います。

 

私も三句。

 

風涼し庭も畳も青々と
鮮やかな日傘は夏の句読点
グミ赤し今日は昼寝をする日です

 

天候に恵まれ気持ちの良い吟行でした。六月は梅雨なのでしばらくお休みして七月に巣鴨、都電沿線などに行きたいと思います。新規の参加者もいつでもお待ちしています。

 


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